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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

田尻漁港の『いま』を支える
漁師さんを訪ねて (後編)

2015.09.30

最寄り駅:南海本線 吉見ノ里駅

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(→前編はこちら)

現在の田尻漁協の組合員は30名。その中でおよそ3分の1を占めるのが30代の若い漁師さんだ。前編では、西浦隆行さん(38歳)、植田祐介さん(34歳)、そして中北英明さん(32歳)から、漁師という仕事の魅力をはじめ、大阪湾で獲れる魚や「日曜朝市」について語ってもらった。

漁師という仕事を生業として選び、田尻漁港を支える世代となった3人は、どんな事をこれからの課題として考えているのだろう?そして、それに対する取り組みとは?

後継者問題に悩む田尻漁協

漁港がにぎわいをみせる一方で、漁師さんが頭を抱えていることもある。それは、自分たちの次の時代を担ってくれる後継者の問題だ。

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 “西浦さん どこの漁港でも起こっている問題やと思いますけど、なかなか後を継ぎたいという若い人がいないというのが現状です。昔みたいにたくさん魚が獲れるのであれば、漁師をやりたいという人もおるんやろうけど。”

これまで温和だった3人の表情が少し厳しく変わった。

 “植田さん 僕らが漁に出だした頃は、沖に出るだけで十分な魚が獲れたんです。でも今は漁に使うエサ代が収入を上回ってしまう日もあるぐらい魚が少なくなったね。”

これまで獲れていた魚の漁獲量が減少していること。その一方で、もともと大阪湾にいなかった魚が増えてきていることが、後継者問題に追い打ちをかけているのだという。

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 “中北さん 特にカレイやアナゴが少なくなって、逆に増えてきたのがサバやイワシ。魚種が変わると漁の仕掛けも変わるでしょ。また一から漁具を揃えなあかんから、なかなか漁に手を出せない漁師さんもいるんです。”

漁に出ることの楽しさ、漁師という仕事の面白さを若い人にも伝えたい。そして漁師という仕事を守り、未来につなげるために海に魚を増やしたい。そのためにはどうすればいいのか?という思いは、3人とも毎日頭を離れないという。

漁業や大阪湾のことをもっと知ってもらいたい

自分たちの漁業を守るための取り組みのひとつとして、田尻漁港では若い漁師さんが率先して「漁業体験」を企画している。

漁師さんが事前に仕掛けておいた刺し網やカゴをお客さんに引き揚げてもらうアトラクションで、漁に加えて、関西国際空港近くまでクルージングも楽しめるように工夫した。

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お客さんが自分たちで網を引き、ピチピチとはねる魚が船に揚がってきた時には、歓声があがることもしばしば。そして港に戻った後は、獲れた魚介を使ってのバーベキューパーティーを行い、漁師さんが率先してお客さんとコミュニケーションを図ることも欠かさない。

 “中北さん 漁業体験をした後に、漁師になりたいって言ってくれる子もいるんですよ。”

この「漁業体験」は、家族連れや、小学校の社会科見学としても大人気で、近年では週末だけではなく平日にも予約が入るほどになった。
少しでもいいから漁業に興味を持ってもらうことで田尻漁港の未来につなげたい。そんな思いを胸に、漁師さんたちは忙しい漁の仕事をこなしながら、みんなでローテーションを組んで対応にあたっている。

田尻漁港の未来を見つめて

大阪湾を昔のように魚がたくさん獲れる海に戻そうという、漁師さんによるさまざまな取り組みも始まっている。海に魚が少なくなった原因は何なのか?皆で話し合いながら、できることは何でもやろうという思いでいっぱいだ。

 “植田さん 昔に比べると、漁具の性能が格段に上がったでしょ。そのために乱獲し過ぎてしまったという反省があって、漁協全体で漁に出る日数を減らしています”

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 “西浦さん 漁に出ることのできる時間帯も厳しくルールづけているんですよ。あと、これから育つ魚を増やそうと稚魚の放流もしています。オコゼやキジハタ、カレイ、ヒラメとかね。”

さらには、山から川へ、最終的には海へと流入する水をきれいにすることで水質改善の効果を高めたいと、年に数回、山の下草刈りやゴミ拾いも行っている。

大阪は赤潮の影響を受けやすく、放流した稚魚が生き残り、成魚になる確率は3割ほどと決して高くはない。また、昔は自然の力で形成されていた大阪湾の水質を、人間の力で取り戻すことは不可能に近いかもしれない。立ち向かう相手が自然環境であるだけに、今はすべてが手探りの状態だ。

海や魚のことについて、後は専門家に任せるしかない、と顔を見合わせる3人の姿は、決して後ろ向きには映らない。自分たちが精一杯行っている試みが、いつか必ず実を結ぶだろうという期待に満ちあふれている。

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 “西浦さん 今、僕たちが大切にせなあかんのは、漁も、港での取り組みも、現状を維持していくということ。そうしながら田尻漁港に来てくれるお客さんをもっともっと増やしていかなあかんね。”

これから現れる次代の継ぎ手のためにも。今はまず自分たちが「日曜朝市」や「漁業体験」を中心となって行いながら、この田尻漁港を盛り上げていくことが大事。そしていつか必ず、昔のような大阪湾を取り戻してみせる。そんな漁師さんたちの強い思いが、3人の話のすみずみに込められていることを強く感じながら、夕暮れの田尻漁港を後にした。

<海辺の隠れ家…田尻漁港の記事泉南市役所職…>

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田尻漁業協同組合

大阪府泉南郡田尻町りんくうポート北1番地
最寄り駅:南海本線 吉見ノ里駅より徒歩約10分
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TEL :072-465-0099