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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

田尻漁港の『いま』を支える
漁師さんを訪ねて(前編)

2015.08.31

最寄り駅:南海本線 吉見ノ里駅

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南海本線「吉見ノ里駅」から海に向かって歩くこと、およそ10分。関西国際空港のちょうど対岸に位置する場所にあるのが田尻漁港だ。

大正時代、田尻町には大きな紡績工場があり、田尻漁港はインドから船で届く原綿を荷揚げする港としても使われていた。

漁港に向かう途中には、日本の紡績産業の発展に尽力した谷口房蔵氏の別邸が「田尻歴史館」として保存されている。
大阪府指定有形文化財であり、洋館と和風家屋が見事に調和したその美しい佇まいは、当時の町の繁栄を現在もなお雄弁に伝えているかのようだ。

潮の香りが漂い、真っ白に映える田尻スカイブリッジが見えてくると、そこはもう田尻漁港の入り口である。

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もともとは大阪府下で2番目に小さかったという田尻漁港。昭和の経済成長期に行政による整備が進められ、さらには漁協による釣り堀やレストラン、マリーナなどの施設も充実している。2005年には、全国で初めて漁港と共存するマリーナ「たじり海の駅」として国土交通省の認定を受けるなど、現在では多くの人が交流する開かれた港へと生まれ変わった。

中心年齢は30代。漁師さんの若さに驚く

およそ20年前、田尻漁港の漁師さんの平均年齢は70歳前後だったという。ところが現在、この田尻漁港を支えているのは、驚くことに30代を中心とした若い漁師さんだ。

現在の田尻漁協の組合員は、正組合員(専業漁師)23名、準組合員(兼業漁師)7名の計30名。その中で実におよそ10名ものメンバーが30代だという。
今回、お話を伺うことができたのは、西浦隆行(にしうら たかゆき・写真右)さん(38歳)、植田祐介(うえだ ゆうすけ・写真中央)さん(34歳)、そして中北英明(なかきた ひであき・写真左)さん(32歳)。3人ともこの田尻町で生まれ育った生粋の地元っ子だ。

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ひと昔前の昭和40年代頃はまだ、周囲を松林に囲まれた小さな港だった田尻漁港。現在では埋め立てにより拡充され、ヨットハーバーも整備されたことで、大阪湾に向けて大きくその玄関口が開かれている。

植田さん 僕らが子供の頃にはまだ砂浜が残っていて、潮がひいたら歩いて沖まで出かけてカニを捕ったりして遊んでいたんですよ。”

3人とも毎日浜を駆け回って遊びながら、港で働く大人たちの姿を見て育ってきた。

船を持ち、一人で漁に出てこそ一人前

西浦さんは3代目の漁師。中北さんは漁師だったおじいさんの後を継いだ。そして植田さんは漁師とは縁のない家庭で育ちながらも、幼なじみに誘われるかたちで漁師の道を選んだという。

中北さん 漁師の家で育ったからって、「自分も漁師になるんや!」みたいな強い思いがあった訳じゃないですよ。本当に自然のなりゆき。”

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植田さん 僕は両親に漁師になるって話した時、「あんた、アホちゃうか」って言われたよ(笑)。”

漁師で食べて行くことの大変さを覚悟しながらも、幼い頃から見つめ続けてきた海や漁、そして逞しい大人たちへの憧れが彼らを漁師という仕事に駆り立てたのだろう。冗談めいた会話からも、そんな思いが伝わってくる。

漁師さんがそれぞれ個人で漁を行う田尻漁協では、先輩漁師の船に同乗する「乗り子」として数年修行を積んだ後、自分の船を持ち、準組合員、さらに正組合員の資格を得て、ようやく一人前の漁師として認められる。

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植田さん 船は5トンぐらいの大きさで、新品で買うと家一軒分ぐらいのお金がかかるんです。”

そう涼しげに話してくれるが、辛い修行を積み、自分の船を手に入れた時の喜びはどれくらいのものだったろう。

中北さん 船に乗って沖に出る。それだけで楽しいですよ。収穫がない時もあるけど、魚がドカッと獲れたらめちゃくちゃ嬉しいよね。”

西浦さん、植田さんもまた、中北さんのそんな言葉に笑ってうなずく。
苦労して手に入れた船を操って出かけるのは、自分がここだと信じる漁のポイント。そして誰の手も借りず、すべてを自分の力だけで漁を行う。そんな誇りや醍醐味が3人を毎日海へと向かわせているのだろう。

大阪湾はおいしい魚の宝庫!

「大阪湾に魚がいるの?」「大阪湾の魚って食べられるの?」
そんな声が聞こえてきそうだが、実は大阪湾は、流入する多くの河川によって、魚のエサとなる生物が豊富に存在する好漁場だ。その昔、大阪が「なにわ」と呼ばれていたのも、魚がいっぱいいる海「魚庭(なにわ)」が語源だという一説もある。

西浦さん ちょうど今、夏の時期にはタコ、アナゴ、ハモ、舌ビラメ、カレイなんかがよく揚がるね。”

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特に泉州で獲れるタコは「泉だこ」としてブランド認定されている。兵庫の明石タコは身がコリコリと締まっていることで人気だが、「泉だこ」は身が柔らかく、甘み豊かなおいしさが自慢だ。
漁師仲間の間では「泉州アナゴ」と呼ばれるアナゴもまた然り。身がよく肥え、脂がのった上品な味わいで、地元の料理店や大阪市内の高級料亭などでしか食べられない高級魚だ。

それらの魚介はもちろん、地元の野菜などが漁港の市場内に所狭しと並ぶ「日曜朝市」は、田尻漁港の名物行事。近年では安くて新鮮な魚を求めて、京都、奈良など遠方からも毎週多くの人が訪れている。

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植田さん 僕らがちょうど漁師になった頃、先輩漁師さんの声掛けで「日曜朝市」が始まったんです。
初めの頃は2、3店舗しかなかったけど、今では50店舗近くが出店するようになって、お客さんもたくさん来てくれるようになりました。
「日曜朝市」の土台を作ってくれた先輩たちには本当に感謝しています。”

「日曜朝市」は漁師さんにとっても漁に次いでの貴重な収入源。そのにぎわいを絶やす事がないようにと、苦手だという接客に苦労しながらも、みんなで一丸となって取り組んでいる。

(→後編につづく)

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田尻漁業協同組合

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TEL :072-465-0099