SUI

南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

海辺の隠れ家的カフェ
オーナーのスローライフ

2015.09.30

最寄り駅:南海本線 鳥取ノ荘駅

_MG_2465

南海本線「鳥取ノ荘駅」は、白いタイル貼りの駅舎にレトロな雰囲気が漂う大正8年にできた小さな駅だ。電車を乗り降りする人もまばらな昼下がりは静寂な空気に包まれていて、まるで大阪から離れてどこか遠くへ来たような錯覚におちいるほどである。

駅から北西へ少し下った道を5分も歩くと、そこはもう海。防波堤の先には、右手に関西国際空港を望みながら大阪湾が一面に広がっている。さらに海沿いの細い道を左手に向かうと、そこには1軒の店がひっそりと佇んでいる。

_MG_2274

そこが、今回目当ての「nunu cafe(ヌーヌーカフェ)」。土曜日と日曜日にしかオープンしておらず、地元でも知らない人の多い、隠れ家的なカフェである。

階段を上がった先にある大阪湾のパノラマ

「nunu cafe」の1階部分は単管で組まれた土台のみ。一見するとまだ工事中のようにも見えるため、道を歩いていてこの店の存在に気付く人は少ない。

_MG_2317

板で組まれた階段を恐る恐る上がっていくと、そこがカフェへの入り口だ。そして中に入ると、突然、目の前には、大阪湾を一望できる素晴らしい景色が飛び込んで来る。その一瞬の感動は、運良くこの店を見つけられた人だけが手に入れることのできる、特別な贈り物のようだ。

IMG_0641

店内は、床も壁も、木の素材を基調にしたオープンエアーな造りで、小さく流れるBGMと、カランコロンと涼しげな音を鳴らす竹の風鈴のほかには、海の香りと静けさだけが広がっている。テラスのテーブルに着いて深呼吸をすると、日々の忙しさに追われていた気持ちは完全にリセットされ、心が穏やかになるとともに、身体の緊張までがほぐれていく。

改めてお店の中を眺めてみると、年代物の扇風機やアメリカンキャラクターの置物、アジアン雑貨などでいっぱいだ。コーナーにはギターやベースのほかにも沖縄の三線、東南アジアの打楽器などが並んでいる。

雑多でありながら居心地の良いその雰囲気は、目の前に広がる海と相まって、まるで異国に来たような、はたまた、大人の秘密基地に潜入したような気分にさせてくれるのである。

友達と一緒に作った 秘密基地をカフェに

_MG_2413

 “実はおっしゃる通りでね。ここはもともと、僕が友達と遊ぶための秘密基地として作った場所なんです。でも、友達は仕事が忙しくてあまり来れなくなっちゃってね。せっかくのいい場所だし、自分だけで独占するのはもったいなぁと思って、お客さんが来るかどうかは分からなかったけど、カフェを開いてみることにしたんですよ。”

優しい口調でそう話してくれるのは、オーナーの三木誠(みきまこと)さん(60歳)だ。

現在、店が建っている土地は、三木さんの父親が所有していたもので、長い間、手つかずのままに放置されていたという。5年前のこと、阪南市から敷地の草を刈ってほしいという要請があり、友人とともに久しぶりにこの場所に訪れた三木さんは、ここに秘密基地を作ることを思い立ったという。

 “それまでここには、僕が小学生の時しか来たことがなかったんです。その頃は海が汚くて、もう二度と来たくないと思っていましたから。それが40年以上経って来てみると、本当にきれいな海になっていてびっくりしましたよ。”

そんな経緯で誕生した「nunu cafe」の建物は、すべて三木さんと友達による手作りだ。土台や建物の柱部分は前述の通り、単管による骨組のみ。そして床や壁に板を張り、窓や建具などの造作を少しずつ重ねながら、完成させていったそうだ。

IMG_0633

 “僕は10年ぐらい前、ホテルの設備管理の仕事をしていたんです。もっと昔には、建設機械のメーカーで働いたり、大工さんを養成する職業訓練学校で、建設の基礎をひと通り教えてもらったこともあってね。長い人生の間でのそんな経験が、こんなところで役に立つとは思ってもみませんでしたよ。”

三木さんの住まいは大阪府北部にある。しかし、この建物への愛着や、あまりの居心地の良さが高じて、最近では、ほとんどの時間をここで過ごすようになってしまったと、三木さんは少年のように笑う。

「楽しいことしかしない」人生を送りたい

_MG_2399

今年、還暦を迎えた三木さんは、これからの人生を「楽しいことしかしない」ことに決めているという。そんな三木さんを慕って、地元のみならず、堺市や大阪市から訪れる常連さんも多い。

店にはたくさんの楽器があるから、ゆったりと流れる時間の中で、誰かが自ずとギターなどを弾き始める。そこからささやかなセッションが始まり、みんなで盛り上がることは常日頃にあるという。
ここで自分たちのライブをやりたいという人も多く、月に一度ぐらいのペースで、ジャズや沖縄民謡などのライブも開催されている。

そして、まだまだ未完成だという店の改装も、お客さんと一緒にイベントとして楽しんでしまうのが、三木さんの流儀だ。

 “「そろそろペンキ塗りをせなあかんなぁ」という時とかに、常連さんに声をかけるんです。そうするとみんなが集まって来てくれるんですよ。作業が終わった後には、ワイワイ言いながら一緒にお昼を食べたりね。
ここは僕だけの店じゃないと思ってるから、みんなでいろんな事を楽しんでいきたいんです。”

ちなみに、このお店に集まってくるのは人だけではない。お客さんがペットの犬と一緒に来店することも多く、時には初対面同士の犬がじゃれ合う、微笑ましい光景に出会うこともある。また、近所の猫がやって来て、のんびりと昼寝をしていることも、ここでは日常の風景だ。
誰もがゆったりとした心で時間を過ごしているこの場所は、きっと犬や猫にとっても、居心地のいい空間なのだろう。

IMG_2147
※1

移ろいゆく海の風景を眺めながら

 “ここはね、真夏には夕陽が目の前で沈むんですよ。そして秋から冬へ、少しずつ左の方に動いて行って、真冬には、加太の岬の上で沈むんです。そんなふうに夕陽を眺めているだけで、季節の移ろいを感じることができるんですね。
それに、ただ目の前に海が広がっているだけじゃなくて、海ではタンカーや客船が、空では飛行機が、ゆっくりゆっくりと動いて行くんです。その様子を見ていると、時間が経っても全然退屈しないですよ。”

IMG_2610※2

何もないけれど、美しい風景と贅沢な時間がある。三木さんは、ここをカフェにすることにした時、海外のリゾート地にぽつんとあって地元の人に愛されているような、ローカルなイメージのお店にしたかったのだという。

 “外国に行った時にね、散歩をしている途中にたまたま見つけたお店みたいなのがあるでしょ。全然メジャーじゃないから誰も来ないし、のんびりしてて、いつまで居てもお店の人に怒られないような。
それで、何となく、そんな雰囲気のお店になってきたかなぁと、最近思ったりしているんです。”

三木さんはもともと料理好きだそうで、カフェの料理のおいしさにも定評がある。中でもココナッツミルクをたっぷり使ったスパイシーなグリーンカレーは、訪れるたびに注文するというファンも多い。

13802922
※3

また、甘くバニラが香る、三木さんオリジナルのコーヒーや、ハワイでは朝食として人気のアサイーボウル、マンゴーなどのフルーツをたっぷり使ったスムージージュースなど、南国のリゾート感があふれるメニューにも三木さんのこだわりが詰まっている。

_MG_2484

街の喧噪を感じながら、仕事などに追われて毎日を過ごしていると、ふとどこかに旅行に行きたくなる時がある。そんな時には、難波から1時間とかからない「nunu cafe」に出かけてみてはいかがだろう。
まるでプライベートビーチのような心地良い静けさと、三木さんの素敵な笑顔が、きっと、癒されたい気持ちを優しく迎え入れてくれることだろう。

IMG_2799
※4

〈写真提供〉※1-4 nunu cafe 三木誠

<泉佐野発 伝説…西鳥取漁港の記事田尻漁港の『…>

nishitottori

nunu cafe(ヌーヌーカフェ)

阪南市鳥取1018
最寄り駅:南海本線 鳥取ノ荘駅より徒歩約7分
[営業日]土曜日・日曜日のみ [営業時間]10:00〜日没まで
※要予約。平日にオープンする場合もあるため、お電話にてご確認を。
TEL :080-4342-8823
URL:http://nunucafe.jimdo.com/
https://www.facebook.com/nunucafe