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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

大阪の海で守られてきた
海苔の養殖

2016.03.02

最寄り駅:南海本線 鳥取ノ荘駅

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お寿司やおにぎりに使ったり、料理のアクセントにするなど、海苔は私たち日本人の食文化に欠かせない、とても親しみ深い食材だ。
ところが、私たちの身近にある大阪湾で海苔が養殖されていることを知る人は、残念ながら少ない。
今では大阪府下でたった3軒のみとなってしまったが、大阪産の味を守ろうと、丹精込めて海苔を育てている人たちがいるのである。

今回は、そんな中の一軒、大阪府阪南市にある名倉水産を訪ねて、南海本線「鳥取ノ荘駅」近くの西鳥取漁港へ。普段はとてものどかな雰囲気の漁港だが、2月の中旬頃は海苔の収穫期を迎えて大忙しだ。

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海苔を育て続けて半世紀

大阪湾で海苔の養殖が盛んになったのは1970年頃。当時は泉佐野から、岬町の深日(ふけ)までの漁港にかけて、70軒もの海苔養殖業者がいたという。
しかし、製造技術の向上によって生産量が大きく増え、海苔の取引価格が下落。その結果1990年代には多くの業者が廃業することになり、今では大阪府全体で、ここ阪南市にわずか3軒を残すのみとなってしまったのである。

 “わしが海苔を始めたんは昭和42年(1967年)。その時分、海苔はまだ高級食材やってな。1枚が20円、今で言うたら100円ぐらいの値打ちがあってんで。”

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そう話してくれるのは名倉繁夫(なくらしげお)さん(79歳)。漁師であり、海苔養殖に関しても、およそ50年のキャリアを持つ人物だ。

海苔の養殖方法には、海中に立てた柱に海苔網を縛って固定する「支柱式漁場」と、海苔網を浮きで海面に浮かせながら、錨(いかり)を沈めて固定する「浮き流し漁場」の2種類がある。
名倉さんが海苔養殖を始めようかと検討していた頃、貝塚では、海苔の名産地といわれる有明海で主流となっている支柱式漁場での養殖が行われていたそうだ。

 “せやけど支柱式はここらの海には合わんのかな。話を聞きに行ったら、「全然上手くいかへんからもう辞めるねん。あんたも辞めとき。」って言われてな。”

そこで名倉さんは、1960年代から普及し始めた、浮き流し漁場に望みを託すことに。家族を置いて単身で北海道に出かけ、身をもって、その技術を学んだのである。

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手間が絶えない海苔養殖の仕事

海苔は胞子によって繁殖する海藻類で、春に成熟すると、オスとメスの有性胞子を放出。この胞子が結合して果胞子(かほうし)となり、糸のような形に姿を変えて、夏の間をカキ殻に潜り込んで過ごす。
この状態はカキ殻糸状体(かきがらしじょうたい)と呼ばれ、秋になり、糸状体から分裂してできる殻胞子(かくほうし)が、いわゆる海苔の種となるのである。

海苔網への殻胞子の種付けが行われるのは、10月を迎えた頃。陸上の水槽にカキ殻糸状体を入れ、その上で、1枚の長さがおよそ20メートルもある海苔網を水車に巻き付けて回転させながら、殻胞子を付着させていく。そして、発芽させた後に漁場に移して、海の中で育てていくそうだ。

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 “昔は自分らで糸状体から育ててたけど、今は糸状体の管理や種付けを専門でしてくれるところがあるから、だいぶんと楽になったわ。
せやけど、海苔を育てるのは温度管理が肝心でな。発芽しても、水温がまだ高いうちは病気になりやすいから、漁場に網を張るのんは、水温が安定する12 月頃まで待たなあかん。せやから芽が出た網は冷凍して、時期が来るまで眠らせておくねん。”

海苔網を漁場に張ってからは、すべてを自然の環境に託すしかなく、これまで以上に注意が必要となる。名倉さんは毎日漁場に出かけ、海苔が順調に育っているか、珪藻などが付着していないか、病気にかかった海苔はないかなどを確認。さらに定期的に海苔網を船の上に引き揚げ、消毒を行うことも欠かさない。

そして収穫の時期を迎えるのは、本格的な冬の気候となる12月の終わり頃から。海苔はおよそ2週間で15センチメートル前後の大きさに成長し、収穫ができるようになるそうだ。1つの網で数回刈り取りを行うと、冷凍しておいた新たな海苔網と交換して再び海苔を育てる。この作業を繰り返しながら、収穫は4月頃まで続くのである。

刈りたての生海苔のおいしさに驚く

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私たちが漁港にお邪魔したのは、ちょうど朝の刈り取りを終え、生海苔を出荷するための準備が行われていた時間。毎年、獲れたての生海苔が届くのを楽しみに待っている人も多いそうで、名倉さんは、育った海苔を丁寧に手にすくい上げ、満足そうに眺めながら袋の中へ詰めていく。

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 “わしら、日本中の海苔を食べてきたけど、大阪湾の海苔はどこに出しても恥ずかしないぐらいおいしいで。
海苔の善し悪しには海の水の状態も重要でな。この辺の海は栄養が申し分ないから、ええ海苔が獲れるねん。”

名倉さんが育てた海苔の色は漆黒だ。それは栄養豊富な海で育った証明でもあり、栄養が足りずに育った海苔は、赤っぽくて色が薄いのだという。また、大阪湾は潮の流れが穏やかなので、とても柔らかな海苔になるそうだ。

名倉さんにお願いして、今まさに出荷する直前の、漁場から揚がったばかりの生海苔を食べさせてもらった。

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確かにすごく柔らかい。それだけでなく、採れたての野菜のようにシャキシャキとして、とても水々しいことにまずは驚いた。
そして噛んでいると、しっかりとした海苔の旨みがあふれてきて、後からじんわり甘みが追いかけてくる。
「海水の塩辛さが残っているのでは?」と思っていたが、優しい磯の風味だけがどんどん広がり、そんな先入観も見事に覆されてしまったのである。

(→後編に続く)

<漁師を支えて… 西鳥取漁港の記事風味満点!大…>

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名倉水産

大阪府阪南市鳥取1071
最寄り駅:南海本線 鳥取ノ荘駅より徒歩約5分
TEL : 0724-72-1011
[営業時間]お電話にてご確認ください(※生海苔の取り扱いは12月〜3月のみ)