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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

風味満点!
大阪湾の海苔を食す

2016.03.09

最寄り駅:南海本線 鳥取ノ荘駅

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(→前編はこちら)

名倉水産では、海苔の養殖だけではなく、生海苔を成形・乾燥した板海苔をはじめ、焼き海苔や味付け海苔の製造も行っている。そしてその製造現場を取り仕切っているのは、前回に登場した名倉繁夫さんの息子である勲(いさお)さん(56歳)だ。
勲さんは18歳の時に漁師に。以来、父親に学びながら、海苔の養殖にも携わってきた。

父と共に海苔の養殖に情熱を注いで

 “昔から「米は88手間、海苔は300手間」って言われててね。それはちょっと大袈裟にしても、ほんまにいろいろと手間がかかるんです。特に今年は暖冬やったでしょ。なかなか海苔が育たんで、病気にかからんようにとか、いろいろ気を使いましたよ。
それで、今年はだいぶと時期が遅れて収穫が始まったけど、予想以上に出来が良くてほっとしてるんです。”

海苔の収穫を行うのは、朝6時半から2時間ほど。その間に船で10回近く往復し、漁場で刈り取った海苔を漁港に水揚げする。その後、機械をフル稼働して板海苔の製造作業が行われるのである。

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朝から夜遅くまで続く板海苔作り

生海苔から板海苔の状態になるまでには、全工程で4時間程度が必要だ。そして、この作業を夜遅くまで何度も繰り返し、1日におよそ2万5千枚の全型サイズ(縦21×横19センチメートル)の板海苔に仕上げるのだという。

板海苔の製造は、まずは収穫した生海苔を真水で洗浄し、付着した異物を取り除くことから始まる。

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そして2ミリほどの細かさに裁断。さらに真水を加えて撹拌し、海苔簾(す)の上に和紙のように海苔を抄き(すき)上げて形を整える。

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 “味の決め手になるのは最初の洗浄。洗い過ぎず、風味や旨みを残すことでおいしい海苔に仕上がるんですよ。
大型の機械にすれば、もっと早く、たくさんの海苔を作ることもできるんやけど、そうすると、細かい部分に目が届かんようになるから味が落ちるしね。せやから今のペースのままで、ずっと作り続けていきたいと思ってるんです。”

勲さんに話を聞きながら作業を見学していると、簾の上に置かれた海苔がベルトコンベアーで運ばれて来た。勲さんは、それぞれの工程を自分の目で確かめながら、片時も機械のそばを離れない。機械での製造とはいえ、ここでは、手作りのような思いで海苔1枚1枚が作られているのである。

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続いて、海苔はベルトコンベアーの上を行ったり来たりしながら、およそ3時間の乾燥工程へ。海苔の状態や、その日の気温や湿度に合わせて、乾燥時間も細かく調整するそうだ。
そして乾燥を終えると、ここからはすべて手作業。出来上がった板海苔に、欠けた部分や混じり物がないかのチェックを行う。そして、昔からの海苔業界の決まり事に合わせ、10枚ずつを重ねてふんわりと半分に折り、その束をさらに10束重ねて帯紙で巻いていく。こうして梱包された板海苔は、取引先へと出荷されていくのである。

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パリッと音をたてて 口の中に広がる磯の風味

生海苔に続き、今度は出来たての板海苔をいただく。まだ焼き海苔のように火入れがされていない状態なのに、口元まで運んで来ると、芳ばしい香りがふわっと漂う。その香りに掻き立てられながら、手でちぎって口の中へ放り込むと、初めは噛み切れないほどの弾力があるのに、ほろほろと溶けながら、しっかりとした海苔の旨みが広がっていく。そして飲み込んだ後には、何ともいえない甘みと爽やかな磯の風味が残るのだ。

「これも食べてみて。」と勲さんが笑顔で渡してくれたのは、名倉水産自慢の味付け海苔。こちらはパリパリの軽い食感で、絶妙の甘辛さがたまらない。また、昆布のように、ねっとりと濃厚な後味を感じたのも、これまで海苔を食べてきた中で初めての経験。火入れされることで水分量が減り、さらに旨みが凝縮されるのだろうか。味付けに使われた調味料に負けないほどに、海苔のおいしさが押し寄せてくる。

 “大阪の海苔、おいしいでしょ。うちは取引先と直接やり取りをしてるから、入札の基準になる等級は付いてないねんけど、味には絶対の自信があるんです。
この海苔の味を守っていきたいし、大阪でもおいしい海苔が獲れることを、たくさんの人に知ってもらいたいんやけどね。”

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そんな思いから、勲さんは地元の小学校や市民団体と協力して、浜辺で、子供たちに向けた海苔の手抄き体験などを行っている。 また、名倉さん親子が育てた海苔は、阪南市の小・中学校の給食で佃煮として出されており、自分の暮らす場所で海苔が獲れることの、子供たちが「知る」きっかけを生み出しているのだ。

「大阪産(おおさかもん)」として認められて

名倉水産をはじめ、阪南市に残る3軒の養殖業者が育てた海苔は、現在、その大半が大阪市内にある「河幸海苔店」で商品化され、「大阪のり」として販売されている。

そして、その「大阪のり」は、府が大阪の特産品として太鼓判を押す「大阪産(おおさかもん)」のブランド認証を取得。海苔を守り育てていきたいと願う名倉さんたちに、大きな励みをもたらしてくれたのである。

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名倉さんたちに愛情いっぱいに育てられ、厳しい冬の間に旨みをギュッと蓄えた大阪湾の海苔。機会があれば、ぜひ一度味わっていただきたい。そして、「大阪でもこんなにおいしい海苔が獲れるんやで。」と、周囲の人はもちろん、他県の人にも、おおいに自慢してほしいと願ってやまないのである。

〈写真提供〉※1 名倉水産

<大阪の海で守… 西鳥取漁港の記事春を呼ぶイカ…>

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名倉水産

大阪府阪南市鳥取1071
最寄り駅:南海本線 鳥取ノ荘駅より徒歩約5分
TEL : 0724-72-1011
[営業時間]お電話にてご確認ください(※生海苔の取り扱いは12月〜3月のみ)