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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

専門家から学ぶ
海の生き物を育む干潟の大切さ(前編)

2015.12.09

最寄り駅:南海本線 岸和田駅

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岸和田市の沖合に、海辺の生き物の生息空間として作られた人工干潟があるのをご存知だろうか?
その正式名称は、「阪南2区人工干潟」。岸和田城がその昔、「千亀利(ちきり)城」と呼ばれていたことから、別名「ちきりアイランド人工干潟」とも呼ばれている場所で、一般開放はされず、貝類や魚の稚魚などさまざまな水生生物をはじめ、野鳥たちも集まる「生物の聖域」になっているというのだ。

この干潟の生物調査を行っているのは、「きしわだ自然資料館」の学芸員をはじめとした様々な分野の専門家たち。今回は、同館の海洋生物担当学芸員である柏尾翔(かしお しょう)さん(28歳)が、この干潟を案内してくれるという。
立ち入り禁止の干潟に入れるというまたとない機会に恵まれ、そこはどんな場所で、どんな海の生き物がいるのだろうと考え出すと興奮はおさまらない。そして待ちに待ったその日が、晩秋を迎えた晴天の日にやってきたのである。

きしわだ自然資料館に柏尾さんを訪ねる

柏尾さんが働く「きしわだ自然資料館」は、南海本線「岸和田駅」から歩いて15分ほどの場所にある、タイル造りのレトロな雰囲気が漂う建物だ。

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館内には、岸和田を中心とした泉州地域の自然に関する展示がされているそうで、到着すると、柏尾さんがにこやかな表情で迎えてくれた。

館内に招き入れられてまず目を奪われたのは、さまざまな種類の魚が泳ぐ水槽の数々。ここで飼育展示されているのは、すべて近辺の海や川に生息している生き物だという。

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 “僕はもともと、北海道の大学でナマコを研究していたんです。4年前にこの資料館が海洋生物専門の学芸員を募集していることを知って、こんなチャンスは2度とない!と思って、試験を受けたんですよ。それで今、ここで海の中にすむ生き物の研究をさせてもらっているんです。”

柏尾さんはそう言って、この魚はどんな場所に生息しているか、どんな習性を持っているかなどを、ひとつひとつの水槽を指差しながら、とても愛おしそうに解説してくれた。本当に、水辺の生き物が好きでたまらない人なのである。

さらに館内を見学させてもらうと、2階は、岸和田の自然のなりたちを、川、海、丘陵地などの環境ごとに紹介しているフロア。そして3階には、ライオンやヒグマなど、寄贈された剥製が数えきれないほどに並ぶ展示室がある。これらすべてをじっくり見て回ると、あっという間に数時間が経ってしまいそうだ。

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また同館では、大学や他の博物館、地域の研究者とも連携して、動植物はもちろん化石や地質にいたるまで、さまざまな調査研究活動が行われており、それらの活動によって収集された標本や資料は、自然保護や環境保全のために役立てられている。

 “それじゃあ、そろそろ干潟に出かけましょうか。潮が満ちてしまうと、見られる生き物が少なくなってしまいますから。”

胸の部分まである長靴を履き、手には大きな網やショベルを持ちながら、準備を整えた柏尾さんが戻ってきた。その姿が、これから何が始まるのかとますます好奇心をかき立ててくれる。いよいよお目当ての干潟へ出発だ。

海の沖合に浮かぶ人工干潟

車で移動し、フェンス越しに広大な阪南2区エリアが広がる埋立地に到着。柏尾さんが入り口の鍵をあけて、フェンスの中へ通してくれた。
生い茂る雑草をかき分けて奥に進むと、沖に向かって1本の長い道が伸びている。干潟はこの道のずっと先、歩いて10分ほどの場所にあるのだという。

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慣れた様子で歩きだした柏尾さんの後を追い、大きなクレーンが忙しく動く埋立工事現場を横目に感じながら道を進む。目の前には真っ青な海と空だけが広がっていて、まるで海の上を歩いているような気分になってくる。海水の透明度も抜群で、道の土台となっている海中の石積みまでが歩きながらでもよく見える。
しかし、こんなにも美しさを取り戻した海に、なぜわざわざ人工で干潟を作る必要があったのだろう?

 “昔はこの岸和田にも砂浜や干潟が広がっていたそうです。それが戦後から高度経済成長期にかけて行われた埋立工事により、ほとんどが姿を消してしまいました。
砂浜や干潟にいる生き物たちは棲む場所を奪われてしまい、ほとんどみることができなくなったんですね。
それで、埋立により失われてしまった環境を復元することにより、かつてこの海に生息していたさまざまな生き物を呼び戻そうと作られたのが、ここの人工干潟なんですよ。”

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岸和田に再び干潟が誕生したのは2001年のこと。まずは実験区として約1ヘクタールの北干潟が造成され、さらにその3年後に、約5.4ヘクタールの広さを持つ南干潟が完成した。
それから十数年の年月をかけて、人工干潟は、一度は大阪の海からいなくなった生き物たちが還れる場所となり、生命を育んできたのである。

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自然に近い海辺の環境を再現

しかし、自然の状態に近い干潟を創り出すのは、そう簡単なことではなかったそうだ。
自然の干潟は、流入する川から砂が運ばれてくることによってその状態が保たれているが、海の沖合では、砂が自然に供給されないどころか、強い潮で流されてしまう。
そこで人工干潟の造成工事は、まずは、一定量の土砂が保持できるよう、干潟全体を囲い込む潜堤をつくることから始めなくてはならなかったのである。

一方、干潟に投入する土砂は、大阪湾にいない生き物の混入を防がなくてはならない。そのため土砂には、堺市の海辺で企業が桟橋工事を行った際に出たものなどが使われた。さらには、土の上にそのまま砂を敷き詰めてしまうと砂が土にしみ込んでしまうため、土と砂の間には、生分解性のあるトウモロコシを原料とした細かい網が敷かれているそうだ。

また、干潟全体のうち約4分の1を、潮の満ち引きによって陸になったり海になったりする「潮間帯」として設計。干潮時でも干潟の上に海水が取り残されて溜まる「潮溜まり」を設けるなど、より自然に近くなるよう工夫をこらし、そして行程を重ねることで、ようやく人工干潟は完成したのだ。

 “この干潟では、特に生き物を呼び込むような取り組みをしているわけではなく、今見られる生き物たちは潮流により子どもが流されてきて、自然に定着した種類ばっかりです。それが、南干潟が誕生してから11年経って、今では、貝のなかまだけでも120〜130種類が確認されるほどになりました。
狭い干潟のことだから、当初はある程度の種類数が見つかると、頭打ちの状態になってそれ以上は増えないだろうと思われていたそうです。でも実際には、今でも今まで見られなかった種類の生き物が次々と見つかっているんですよ。”

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柏尾さんから干潟に関する話を聞きながら歩いているうちに、砂地がなだらかに盛り上がった南干潟が見えてきた。陸の部分にはハマヒルガオやツル科の植物が群生していて、これが人工的につくられた干潟だとは、にわかには信じられない。
この場所が、大阪湾に生き物たちを呼び戻す力になっていると初めて知った直後でもあり、目の前に広がる風景が大きなエネルギーに満ちているようにさえ感じてしまうのだ。

〈写真提供〉※1 岸和田市

(→後編に続く)

<漁師たちの一… 岸和田漁港の記事専門家から学…>

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きしわだ自然資料館

大阪府岸和田市堺町6-5
最寄り駅:南海本線 岸和田駅より徒歩約15分
[開館時間]10:00〜17:00 ※入館は16:00まで
[休館日]
・水曜日(祝・休日は開館)
・祝・休日の翌日(土・日・祝日は開館)
・毎月末日(土・日・祝日は開館)
・「敬老の日」の前日と前々日(だんじり祭り)
・年末年始(12/28〜1/3)
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TEL :072-423-8100
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