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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

専門家から学ぶ
海の生き物を育む干潟の大切さ (後編)

2015.12.16

最寄り駅:南海本線 岸和田駅

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(→前編はこちら)

干潟に着くやいなや、柏尾さんはザブザブと音をたてながら、浅瀬になっている海の中に入って行った。そしてシャベルで海底の泥砂をすくい、私たちのいる場所まで持って来てくれた。

 “こうやって砂の中にいる生き物をひとつひとつ探し出すんです。それで、これまでに確認できているものについては記録をのこし、また放流します。珍しいものを見つけた時には容器に入れて持ち帰って詳しく調べたりね。そんな調査をここで月に一度行っているんですよ。”

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人工干潟は海の生き物たちの「ゆりかご」

泥砂の中をのぞきこむと、砂粒と見間違えるほどの小さな貝や、釣りエサにも使われる小さなミミズに似たゴカイという生き物のなかまが見える。柏尾さんたちは、5ヘクタール以上にも及ぶ干潟の砂場や岩場、そして水中を相手に、こんなに小さな生き物まで見つけ出すという地道な活動を続けているのだ。

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ゴカイのなかま(砂から伸びている赤い紐状の生き物)

 “あ!これはウミニナですね。大阪府では絶滅危惧種に指定されている貝なんですが、この干潟では、1平方メートルの範囲の中に100個体以上も見つかります。府内でもここまで高密度に分布している所はなかなかないように思います。これは、アラムシロガイ。アサリなどの貝や魚の死骸をエサにして生きています。これはフサゴカイのなかま。赤い触手がかわいいでしょ。”

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ウミニナ

柏尾さんは「岩場にもいろんな生き物がいるんですよ。」と言い残し、今度は岩場の方へ出かけていく。しばらく経つと、今度は網を大事そうに抱えながら、ニコニコとした表情で戻って来た。

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 “これはコブヨコバサミといって、この辺では一番大きくなる種類のヤドカリです。まだまだ大きく成長しますよ。この小さなカニは、タカノケフサイソガニっていいます。絶滅危惧種のハクセンシオマネキも見てもらいたかったんですが、残念ながら、みんな隠れちゃってて…。”

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ヤドカリのなかま

網を片手に干潟を歩き回る柏尾さんは子供のように楽しそうだ。しかし、私たちには同じように見える生き物でも、微妙な特徴の違いを捉えて種類を調べていく。そのプロフェッショナルな仕事には思わず感嘆してしまう。

 “前回の調査の時、日本国内ではまだ報告されていない種類のウミウシを見つけたんです。今それについて詳しく調べているところなんです。”

いつかここから、柏尾さんが名付け親となる海の生き物が誕生することもありえない話ではないのである。

干潟を守ることの大切さを発信したい

人工干潟のエリア内には、海中の土砂が流出したり地盤がゆるむことで、足を踏み入れると沈み込んでしまう危険な場所もあるという。
そんな理由もあって一般開放されていないのだが、柏尾さんたちは、この干潟があることで、大阪の海が豊かに甦りつつあることを発信していきたいと考えている。
そこで年に2回、一般の人々に向けた干潟観察会を実施。子供たちのみならず、大阪の海がいちばん汚れている頃に子供時代を過ごした彼らの両親にも参加を呼びかけているそうだ。

阪南2区観察会※1

 “子どもたちだけでなく、お父さん、お母さんにも、大阪の海にはこんなにたくさん生き物がすんでいることを知ってもらいたいんです。観察会では、子どもと一緒になって楽しそうに海の中に入っている親御さんたちの姿を見るとうれしくなりますね。
年に2回の観察会のうち1回は、「大阪湾生き物一斉調査」といって、大阪湾沿岸域で活動する様々な団体が地域の人たちを巻き込んで、一斉に生き物の調査をするという、大規模なプロジェクトの一環として行われるんですが、専門家が長いこと調査しても見つからなかったような変わった生き物が見つかることも結構あるんです。僕たちは、知識や経験である程度ポイントをしぼって探そうとするでしょ。でも、皆さんは、いい意味で手当り次第に探してくれるから、僕たちがびっくりするような生き物が発見できたりするんですよ。”

この干潟に集まってくるのは小さな生き物たちばかりではない。平成23年にはアカウミガメが産卵に訪れ、 50〜60体の子ガメが孵化したことも確認されている。また、干潟の近くを1メートル以上もあるナルトビエイが泳いでいることもあるそうだ。

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 “もともと大阪湾には、多くの生き物たちがすみつく素地があったんでしょうね。干潟をつくれば、これだけたくさんの生き物が再び見られるようになることが分かったんですから。
特にこの干潟は沖合にあることで、沿岸域ではあまり見られない珍しい生き物を見られることも多いんです。そんな豊かな場所が大阪湾の中にもあることを広く伝えながら、生き物たちの成長を大切に見守っていきたいと思っています。”

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広い大阪湾から見れば、5.4ヘクタールの人工干潟というのはささやかな存在かもしれない。しかし、この場所が小さな生き物や魚たちが育つための拠り所となり、素晴らしい変化をもたらしてくれているのだ。
大阪湾が「魚庭(なにわ)の海」と呼ばれた頃の豊かさを取り戻すために、今後もこのような取り組みが生まれてほしいと願わずにはいられない。
それは今からでも決して遅くはないことを、この「阪南2区人工干潟」が教えてくれているのだから。

〈写真提供〉※1 きしわだ自然資料館

<専門家から学… 岸和田漁港の記事岡田漁港で希…>

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ちきりアイランド 人工干潟の水生生物

http://www.toshiseibi.org/suisei/index.html