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プロの仕事の緊張感が伝わる
佐野漁港の競り風景 (前編)

2015.08.31

最寄り駅:南海本線 泉佐野駅

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午後1時を回ると、佐野漁港には漁師たちの船が一艘、また一艘と戻って来る。それを待ち構えていたかのように海鳥が船の上空で旋回を始め、船着き場には船のロープを取るための人たちが駆け寄って来る。中には意気揚揚と大漁旗を掲げている船もあり、それまで静かだった港がにわかに活気づく。

泉佐野漁協では朝5時に漁船が一斉に漁に出る。そして午後2時から始まる競りに間に合うように漁を終えて寄港するのだ。競りで落とされた魚はすぐさま仲買人の手や配送によって鮮魚店に届けられ、鮮魚店は通常ならば翌朝店頭に並ぶ魚を、獲れたその日のうちに販売することができる。これは「昼網」と呼ばれ、何よりも新鮮な魚介を表す言葉として、耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。

「昼網」の魚が私たちの食卓に並ぶ数時間前。佐野漁港ではどんな風に競りが行われているのだろう?そんな思いに心を踊らせながら、競りの現場を見学させていただくことにした。

帰港すると、すぐに始まる競りの準備

競りは、その日漁に出た船を7班に分けて1班ずつ順番に行われる。漁から戻った漁師たちは、鮮度の高いまま魚を競りにかけるため、自分の競りの時間に合わせて慌ただしく準備を始める。船着き場ではリヤカーなどが行き交い、ピンと張りつめた空気を感じずにはいられない。

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競り場は船着き場のすぐ隣にあり、漁師さんたちがまず行うのは、船の上で魚を種類ごとに選別する仕分けだ。そして仕分けた魚を自分の屋号が書かれた競り用の箱の中に美しく並べていく。これは「魚立て」と呼ばれ、魚の見栄えを良くすることで競り落とされる値段を高くするための大切な作業だという。

そしていくつもの箱をリヤカーに積み、競り場まで何往復もかけて魚を運ぶといよいよ競りの準備は完了。箱の中にはタイ、スズキ、太刀魚、カレイ、タコ、ワタリガニなどなど、軽く見渡すだけでも15種類以上の魚介が入っていて、大阪湾の魚の種類の豊富さに改めて驚かされる。

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毎回、競りにかけられる魚の量は平均しておよそ3トン。競り場にずらりと箱が並び、中には勢い良く箱から飛び出す魚もあちらこちらで見かけられ、その風景に圧倒されてしまう。

いよいよ競りがスタート!

午後2時になると大きなサイレンの音とともに競りがいよいよ始まった。「売り子」と呼ばれる進行役の声が響き、約5メートルの長さの競り台の上を、箱に入れられた魚が順に流れていく。整然と並べられたアジやイワシの箱、大物が1尾だけ入れられたタイやスズキの箱、バタバタと足を動かすワタリガニの箱など、魚介が流れてくるたびに仲買人たちの厳しい視線が向けられる。

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しかし1つの箱が競り落とされるまでの時間はわずか3秒ほどで、素人の目には一体何が起こっているのかわからない。売り子のかけ声がかかると仲買人たちは落札したい値段を指で合図として示し、その後、売り子から名前を呼ばれた人に落札されるのだという。

もっともこの競りは、売り子も仲買人も、一般の人にはわからないように進行しなければならないそうだ。港ごとに伝統の方法があり、長年競りに関わっている人でさえ、他の漁港の競り風景を見てもまったく理解できないというプロフェッショナルな世界である。

仲買人は泉佐野市近辺の鮮魚店に魚を卸している人が大半だ。競り落とされた魚は車に積んだ水槽へ、競り場の通路を走って急いで運ばれる。中には鮮度を保つため、その場で締める魚もあるそうだ。

また、佐野漁港内にある「青空市場」の鮮魚店にもすぐさま競り落とされた魚が並び、集まった多くの買い物客の手へと渡されていく。その光景を見ていると、地産地消の営みがまさにこの場で行われていることをリアルに感じずにはいられない。

競りを回すのは「売り子」の役目

開始からおよそ1時間15分の間、緊張感が途切れることのない競り場を回しているのは、魚を競り台に流す「出し子」、進行役となる「売り子」、そして落札した業者や価格を記録する「帳面付け」と呼ばれる3人だ。

これらの仕事は漁師ではなく、漁協に所属している専任の担当者によって行われており、中でも、売り子は落札決定の権限を持つキーパーソンである。

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泉佐野漁協には2人の売り子が所属しており、この日、売り子を務めていたのは先輩格の金野将明(かねの まさあき)さん(37歳)。会社員から漁協の一員になったという珍しい経歴の持ち主である。

 “会社をやめてちょうど仕事を捜していた時に、魚屋で働く義母から漁港で欠員が出たという話を聞いたんです。僕は山育ちだし、それまで魚や漁とはまったく関係のない仕事をしていたので、自分なんかにできるのか不安でいっぱいでした。”

見習い期間の間に仕事の厳しさに耐えられずにやめていく人が多いという漁業の世界。初めて漁協に説明を聞きに来た時に、体格も声も大きい漁師さんたちの姿を見て、金野さんの不安はさらに大きくなったという。しかし、見た目とはうらはらに思いやりにあふれた漁師たちに支えられて13年。金野さんはめきめきと、売り子としての腕を上げていったのである。

(→後編に続く)

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泉佐野漁業協同組合

大阪府泉佐野市2丁目5187番101
最寄り駅:南海本線 泉佐野駅より徒歩約15分
TEL :072-469-2340 [競り開始時間]14:00〜15:15 [定休日]水曜日・日曜日
※営業日でも、天候等により、競りが行われない場合あり