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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

「大阪産」のシラス普及をめざせ!
入札場が起こした改革

2015.11.11

最寄り駅:南海本線 蛸地蔵駅

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大阪府鰮巾着網(いわしきんちゃくあみ)漁業協同組合は、大阪府全体の漁獲量のおよそ75パーセントを占める岸和田漁港に拠点があり、さらにその中でも、およそ80パーセントもの水揚げ高を誇る大きな漁協だ。

5隻の大船団による巾着網漁(=巻き網漁)で、イワシやアジ、サバなど、集まって群れをつくる習性の強い魚を捕獲。さらに、イカナゴやシラスを獲るための船びき網漁も併せて操業しているという、全国的にみても、数少ない事例を持つ漁協でもある。

また、漁に従事するだけではなく、魚の冷蔵・冷凍施設からシラスの加工所までを設けた組織を確立し、昭和24年の設立以来、めざましい成長を遂げてきた。

そして、大阪に漁場があり、消費者のすぐ近くにいる「都会の漁師」として、魚の商品価値を上げていきたいと願うこの漁協で、昨年から新たな取り組みが始まり話題を呼んでいるという。
その新たな取り組みとは?そして、これからの展望とは?
同漁協の組合長、岡 修(おか おさむ)さんに話を伺った。

「大阪産」のシラスを市場に広めたい

大阪湾は魚が成長するためのエサが豊富で、春の解禁期間にはイカナゴが、そして初夏から晩秋にはイワシの稚魚であるシラスがたくさん獲れる豊かな漁場だ。

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しかし、大阪に住んでいる人でも、これまで、「大阪産」とラベルに書かれたイカナゴやシラスを手に取ったことがある人は少ないのではないだろうか。
それもそのはず。大阪湾で獲れたこれらの魚は、主に府外の加工業者に販売され、加工された場所である「兵庫産」「和歌山産」となって市場に出されるからである。

また、これまで四半世紀以上もの間、大阪湾でイカナゴやシラスを獲る漁師たちは、それぞれに加工業者と直接契約をしていた。そのため、獲れた魚は各業者の決めた値段で取引され、競争相手がいないことから、たとえ質の良い魚が獲れた時でも、魚の価値が上がることもなかったそうだ。

このままでは、大阪湾で獲れた魚なのに、消費者には「大阪産」として認識してもらえず、普及もできない。また、獲った魚を自分たちが納得できる値段で卸せないままでは、漁師の生活を豊かにすることもできない。
そんな状況を打開するための取り組みとして、鰮巾着網漁協の漁師たちは、地元・岸和田での水揚げ・販売を行うことを決断。
平成26年3月。岸和田漁港の敷地内に、イカナゴとシラス専用の入札場を開設したのである。

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岸和田漁港にシラスの入札場が誕生

入札場とは、いわゆる競り場のこと。大阪の漁師たちが獲ったシラスのほとんどがここで水揚げされ、専用のカゴに入れて敷地内に並べられる。それを各地から集まった業者たちが値踏みし、自分が買いたいシラスの値段を入札して競り合うのである。

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 “入札場ができるまでは、それは長い道のりやったで。漁師さんはみんな、言うなれば企業の親方で商売敵やからな。一緒に何かをやろうというのは難しいことやねん。
それに入札場を開いても、業者さんがわざわざ買いに来てくれるかどうかも分からん。競売にすることで、逆に売値が下がってしまうかもしれへん。そう考えると不安やったよ。
せやけど、ここで獲れた魚は、やっぱり「大阪産」としてブランド化していきたい。それに漁師が獲ったもんの値段は漁師が決めるべきやしな。「いっぺん、みんなで痛みを分かち合う覚悟でやってみようや。」と、大阪でシラス漁をやってる漁師さんを説得して回ってん。”

こうして、いよいよ入札場が開業したわけだが、漁師たちの下した決断は大正解だった。入札所には目利きの加工業者が、各地から大型トラックで集まるようになったのだ。そして入札所ができてわずか1年の間に、シラスの売値はそれまでより3割以上も値段を上げ、今では、「日本一の入札高の競り場」と加工業者から冗談混じりに言われるほどになったという。
また、漁師の収入が増えるだけではなく、入札場で働く人たちの雇用も生まれた。岸和田漁港はシラスとともに多くの人が行き交う場として、ますます活気づいてきたのである。

魚の価値を上げるための秘策

しかし、魚の販売方法が業者との直取引から入札に変わることで、果たして、取引される値段が3割も上がるものだろうか?素人には、にわかに信じがたい話なので、岡さんにさらに踏み込んで話を聞いてみた。

 “入札にしたことで、漁師さんの魚の扱い方が変わってきたんや。自分の獲った魚をちょっとでも高く買ってもらうために、みんなが切磋琢磨する。それを加工屋さんが評価してくれた結果やと思うわ。”

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確かに、漁師や入札所で働く人たちの努力はめざましい。獲れたシラスは短時間のうちに運搬船によって漁場から港へと届けられる。そして入札所の横で水揚げされ、すぐさま競りに回される。
実際に入札の様子を見学したが、水揚げから入札が行われ、その後、加工業者の手に渡って冷蔵トラックに運ばれるまでが、5分とかからないほどのスピーディーさで順次行われているのである。

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加えて鰮巾着網漁協では、すべての船に、真水をマイナスイオン効果で殺菌作用の高い水質に変える浄水器を積んでいるそうだ。網から船に揚がったシラスは、この浄水器を使った水で丁寧に洗われる。さらに、その水を使った氷で締めることで、シラスの鮮度を保っているのだという。

 “獲った魚を1日中船の中に入れてたら、氷も溶けてくるし、そら鮮度も質も落ちるわな。運搬船があるだけでもだいぶんと違うで。水や氷かて、原価も手間もかかるけど、「大阪産」としてブランド化していくためにも、ほんまにおいしいシラスを食べてもらいたいからな。”

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実際に、加工業者の間では「大阪のシラスは鮮度も状態も最高」と評判を集めており、その噂を聞きつけて、新規の加工業者が訪れることも多いという。
入札所の誕生は、漁師たちが納得できる値段での取引を実現したことはもちろん、岸和田に集まるシラスのおいしさを、取引業者を通じて広めていく宣伝効果を見事に果たす結果となったのだ。

消費者にもっと近い 漁港をめざして

そして、シラスについてのもうひとつの課題、「大阪産」として普及・PRしていくための取り組みも、始まっている。

そのひとつが、地元・岸和田に住む人や、大阪から遊びに来る人たちに向けたイベント、「地蔵浜みなとマルシェ」だ。
主催の鰮巾着網漁協だけでなく、大阪府内の多くの漁協が出店。大阪産のシラスや鮮魚などが販売されるイベントで、今年の8月から試験的に行われてきた。そして、イベントに訪れる人が回を重ねるごとに増えてきたことから、今年の10月からは本格的な継続が決定。「大阪産」シラスをさらにPRしていくことになったである。

また、鰮巾着網漁協以外でも、入札場の開設をきっかけに、6次産業としてシラスの加工販売に着手する漁師が生まれている。
「地蔵浜みなとマルシェ」だけでなく、府内のさまざまな漁港で行われる朝市や、地元の特産品を扱う商業施設で、「大阪産」のシラスが販売される機会も少しずつ増えてきているのだ。

 “入札場の開設が上手くいったし、次の段階としてのマルシェもだんだん普及してきたやろ。それで、近い将来は、この岸和田漁港に「海の駅」を作りたいと思ってるねん。
岸和田は関空も近いし、立地条件がいいからね。たくさんの人にここに来てもらって、大阪湾で獲れた魚を食べてもらうことが理想やねん。競りとかも見学できるようにして、そのまま魚が買えるようにもしたい。それで魚の需要が増えたら、岸和田には今よりもっと魚が揚がるようになるやろうしな。そんな風にして、この港を大きくしていこうと思って、我々は頑張ってるねんで。”

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「灯台下暗し」という言葉があるが、取材を重ねていると、「もっと大阪の人に、大阪の魚のことを知ってもらいたい」という声を、岡さんをはじめ、多くの漁港で働く人たちから耳にする。
大阪の漁港には、おいしい魚を私たちの食卓に届けようと、ひたむきに取り組みを続けている人たちがいる。そんな人たちに感謝するとともに、スーパーや鮮魚店で「大阪産」の魚を見つけた時には、ぜひ買って食べることで、これからの大阪の漁業の発展を応援していきたいと、改めて深く思うのである。

〈写真提供〉※1 大阪府鰮巾着網漁業協同組合

<泉南市役所職… 岸和田漁港の記事海の恵み 泉…>

 

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